×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
TAのED後設定のバロン組。なのでカインは赤き翼の隊長殿です。
ほのぼの友情&家族愛。
※バロン国の設定を少々捏造。
※拙宅のセシルさんは、相当な親バカ&親友バカ
※区切りがよかったので前篇として切りましたが、短いです。
※後篇は近日アップ……できたらいいなぁ(願望かい)
よろしければ↓
ほのぼの友情&家族愛。
※バロン国の設定を少々捏造。
※拙宅のセシルさんは、相当な親バカ&親友バカ
※区切りがよかったので前篇として切りましたが、短いです。
※後篇は近日アップ……できたらいいなぁ(願望かい)
よろしければ↓
一年間を十二分する暦で見た時、第八番目に当たる月の事をバロンでは『立法月(りっぽうづき)』と呼んでいる。
その昔、バロンの祖たる小都市国家で初めて憲法が制定されたのが第八の月だった、というのが由来だ。もっとも五百年も前の話だから、記録がどれだけ正確なのかは怪しいところなのだが。
ともかくその、記録と物語が混ざりあっているような古い歴史書に拠れば、第八月は前バロン王の祖先が議会の内紛を調停し、十五箇条に渡る憲法を制定してバロン国の基礎を築いた、という記念すべき月なのである。『血塗られた三日間』とも呼ばれる烈しい内紛が治められたことから、俗に『和平月』とも言われている。
そんな初等学校で習うような知識を思い返して、現バロン王であるセシル・ハーヴィはニコリと微笑んだ。
窓から差し込む日差しも眩しい。本日から月が替わって、立法月だ。
(――ああ、今日は素敵な日になりそうだね)
綺麗に晴れ渡った空を見ながら、セシルは身近な人の笑顔を思い浮かべて目を細める。
立法月の朔日。
この日に、バロン国民は大切な人と贈り物を交換する慣習があるのだ。
親愛なる君へ
「……あ」
「あら、おはようセシル」
寝室から隣の居室へ向かえば、ローザが花を活けているのが目に入ってセシルは思わず声を上げた。
細口の花瓶に挿し込まれた一輪の真っ白な花。
その繊細な美しさに見覚えのあったセシルは、口元を綻ばせて肩を竦めた。
「先を越されちゃったな。そんなに寝坊したつもりはなかったんだけど……僕が寝てる間にカインが来るなんて、珍しいじゃないか」
雪のように白いその花は、カインが毎年この日にローザに贈っているものだ。
高い山の険しい絶壁にしか生えぬそれは、竜騎士たる彼が自身の特技を遺憾なく発揮してこそ採って来られるもので。彼が一人前の竜騎士らしい跳躍を会得してからずっと――行方不明だった十数年間を除いて、ずっと。変わることのない約束の品だ。
「君が呼んだのかい?カインが来るなら僕も起こしてくれればよかったのに」
ゆったりとローザに歩み寄りながら尋ねる。
我らが二十年来の親友は少しばかり融通のきかないところがある男で、自分からこの部屋を訪ねてくるなんてことは、今や滅多にない。「仮にも臣下たる自分が、呼ばれもしないのに国王の居室にホイホイ行けるものか」などと水くさい事をのたまうのだ。
だから、こんな朝の時間からカインが部屋に来て、しかもセシルが寝ている間に帰ってしまったというのがセシルには少々意外だった。ローザに呼び出されたなら来るだろうが、それにしても、自分が起きるまで少しぐらい待っていてくれてもいいのに。
まるで拗ねているような自分の口調に気付いて、セシルはほんのり苦笑した。寝てる間に行っちゃうなんて、とは、まるっきり幼い子供のようではないか。
そんなセシルに、ローザは笑って首を横に振った。
「あなたは昨夜も政務で遅かったから……それにね、カインじゃないの」
「え?」
「カインは来てないわ」
ぱちくり、目を瞬いた夫に、ふふっと悪戯っぽく気をもたせてから。
ローザは至極嬉しそうに表情を和らげた。
「これ、ね。セオドアなのよ」
細身の花瓶を抱きしめるようにして言ったローザに、セシルも目を瞠る。
「今朝一番で持ってきたのよ。『カインさんに教えてもらいました』って。あの子ったら」
「へぇ……セオドアが」
一人息子からの贈り物に相好を崩す様は、母親の慈愛に満ちている。
セシルは少々親馬鹿が過ぎるかと一抹の懸念を抱きながらも、息子の成長を想ってやはり目元を緩めた。
あの花を採って来られたということは、そしてそれをカインが促したのだということは、セオドアはそれだけの実力を認められたということだ。
――世界最後にして最高の竜騎士にジャンプの資質を認められるなんて、なかなかに先が楽しみな息子ではないか。
親馬鹿どころか親友馬鹿でもあることを十二分に示す台詞を胸中に零しながら、セシルはニコリと微笑んで、後ろ手に隠し持っていた物を妻へと差し出した。
「それじゃ、僕からはこれ。君が読みたがってた白魔道書だよ」
ポロムに言ったら探してくれたんだ。
言い添えて渡せば、ローザはその表紙に目を輝かせる。
「まあ…!ありがとう。ポロムにもお礼を言わなきゃ」
さっそくパラパラと2、3ページを捲りながら、ローザは感嘆の溜息を漏らした。その様を見て、セシルはやはりポロムに相談してよかったと口元を綻ばせる。
貴重な白魔道の古書の、高名な魔道師による注釈付きの写し。魔法国家ミシディアの有力者でもなければまず手に入らない品だ。ローザはまだまだページを繰りたいのをぐっと堪えた様子でパタリと本を閉じると、セシルに花のような笑顔を向けた。
「座ってセシル。私からは紅茶のプレゼントよ。前にどこかから頂いて、あなたがすごく美味しいって言った茶葉!」
「ああ!あれ、見付けたのかい?」
「ギルバートがね。さすがは商業国家ダムシアンだわ」
くすりと笑ってローザは紅茶の缶を取り出してみせた。博識で、かつ意外と商魂たくましい友人の顔を思い浮かべてセシルも納得する。なるほど、彼ならば世界中の名産品を知っているはずだ。
立法月朔日の贈物を手に入れるのに、人の力を借りることを二人とも躊躇わなかった。もしこれが全世界共通の慣習で、友人が皆そろいもそろって贈物の調達に奔走しているのだとしたら少し頼みにくいけれど。幸い、これはバロン独自の行事なのだ。
ポロムに事情を話したら、素敵な慣習ですわね、と歓んで協力を申し出てくれた。ギルバートもきっとそうだろう。まったく自分たちは良い友人をもったものだ。
昔は自分一人の力で贈物を用意することに拘ったりもしたけれど。せっかく素敵な友人たちがいるのだから、頼るのを躊躇う必要はないだろうと今は思う。何しろ、彼らはそれぞれ自分とは異なる得意分野をもっているのだし、そこを見込んでお願いすれば、自分が一人で奮闘するよりずっと良いものが手に入るのだから。
そういうのを「モチはモチヤ」と言うんだと昔エブラーナの王子が教えてくれた。モチって何だいと聞いたら、驚き憐れむような顔をして「今度食わせてやる」と言っていたから、きっとエブラーナではポピュラーな食べ物なんだろう。結局、未だに御馳走してもらってないのだけれど。
「すぐに淹れるから、目覚めのお茶にしましょう。朝食前だけど、カインが城下で買って来てくれたお菓子も出そうかしら?」
「カイン、今年はお菓子にしたんだね」
「ええ。セオドアがお花と一緒に届けてくれたの」
絶壁の花のことを聞いたセオドアが、カインさんの専売特許を譲っていただくなんて申し訳ない、と遠慮したら、俺はもう他の物を買ってあるから気にするなと言われたんですって。
ふふふ、とローザは可笑しそうに笑った。息子を厳しく鍛えてくれている赤き翼の隊長どのは、想像以上の絶壁にセオドアが怯んだ時のためにと先回りして逃げ道を塞いだらしい。
もっともセオドアは今更絶壁に怯むほどヤワではないから、おそらく本当に遠慮しただけだろうけれど、と、セシルはまたも親馬鹿気味なことを考えた。
「……カイン、私がフィナンシェ好きなの、覚えてたのね」
華奢なデザインの紙箱を開きながら、ローザは独り言のように呟いて目を細めた。
箱に詰められているフィナンシェは、幼い頃からのローザの好物だ。ついでに言えば、その箱にレタリングされている店名はローザの一番好きな菓子屋のもの。昔から無愛想だけど実は心優しい竜騎士の記憶力に、幼馴染二人は温かい心持ちにさせられる――本音を言えば、あの女性好みな可愛らしい菓子屋にあのカインがわざわざ足を運んだのだろうという事実の方が、セシルには微笑ましく感じられたのだけど。
甘い匂いのたちこめる菓子屋に似つかわしくない仏頂面の男がフィナンシェを指差す様を想像して、セシルは込み上げる笑声を堪えながらローザに問いかけた。
「セオドアは、僕の分は何か置いていかなかったのかい?」
「ふふ、あなたには起きてから直接渡したいそうよ」
「……カインのこのお菓子は、僕ら二人に?」
「いいえ、これは私の。カインもあなたには直接渡したいと言ってたって」
だから、あなたへの贈物は何も預かっていないわ。
ローザは、残念でした、とでも言うように徒手を広げてみせてから……ふわりと、また慈愛の微笑みを浮かべた。
「よかったわね、セシル」
その言葉に。
三十路も半ばに差し掛かろうかというバロン国王陛下は、まるで幼い子のように。
「うん」
にっこりと、素直に満面の笑みを浮かべた。
――僕も、彼らへのプレゼントは直接、顔を見て。
大切な息子と大切な親友の笑顔を一番近くで見られるなら、それは馬鹿な僕にとって何よりの贈物だ。
ああ、今日は素敵な日になりそうだね。
窓の外に目を遣りながら、セシルはまた、そう思った。
-----------------
後篇はカインとプレゼント交換(笑)
PR