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TAのED後設定、バロン組小話の後篇です。

※セシ×カイ風ですが、あくまでセシ+カイ
※とにかく親友が大好きすぎるセシル(あくまで友情)
※エジカイ要素あり

よろしければ↓


「あ」

玉座の間へ向かう廊下で、国王セシルは思わず間抜けな声を漏らした。
何故ならば、角を曲がったところで、長い金髪の束が揺れる背中を見付けてしまったからだ。
その上にこちらの声を聞き咎めて男が振り返ったものだから、バッチリと目が合ってしまってセシルはあーあと眉を下げる。

彼のことは後で自分の執務室に呼ぶつもりだったのに……
――まあ、いいか。

がっかりしたのはほんの一瞬。立てていた計画をアッサリと放棄してセシルはニコリと微笑んだ。
場所がどこであろうとそう変わらない。それに、楽しい事は早い方がいいではないか。

寸の間に二転三転したセシルの表情に、目の前の臣下兼親友は少し訝るような顔をしてから、うやうやしく頭を下げた。

「おはようございます陛下。ご機嫌麗しゅう」
「よせカイン。声が笑ってるぞ」

うやうやしく、と言うよりは、わざとらしく、と言った方がいいかもしれないな、この場合。
不満も露わな苦い声を返せば、案の定カインはくっくっと笑いながら顔を上げる。

何度も言うが、セシルの二十年来の親友は少しばかり融通のきかないところがある男だ。
しかしセシルは彼を赤き翼の新隊長に任命して以来、実に一ヵ月にも及ぶ説得の末に、他人のいないところでは昔通り友人としての態度で接するという約束を取り付けていた。
……もっとも一ヵ月もかかったのは、途中から相手が面白がって半ば揶揄目的で敬語を使っていたせいなのだけれど。この男は基本的には生真面目だが、たまに意地の悪いところも あるのだ。

だから先程の仰々しい挨拶も、ただの質の悪い冗談に過ぎない。
国王となって十数年。周囲の者に敬われる、ということには、さすがに少しは慣れたけれど。昔から自分の半歩先を行くように側に居てくれた幼馴染に敬語を使われるなんて、どん な拷問だ。と、セシルは思うのである。
一ヵ月に渡る説得の中でそう言い募ったら、カインは奇妙な顔をして「……半歩、先?」とか何とか呟いていたけれど。それ以上はカインは何も言わなかったし、己も聞いてはいな い。

背筋を伸ばして5センチ上の目線からこちらを見る男が、完全に臣下としての態度を捨て去ったのを感じてセシルは漸く不機嫌の表情を拭い去った。
にっこりと笑ってみせれば、カインは黙ったまま話を促すような視線をこちらに送る。そんな仕草は昔のままだ。

「ローザに聞いたよ」
「セオドアのことか?」

唐突な話題に、カインはほんの僅かに目元を緩めてそう応えた。
ああ、カインもセオドアのことを大切にしてくれているんだよね。弟子の成長を歓ぶ師のような表情を浮かべた親友に、セシルは嬉しくなって頬を綻ばせる。
こんな表情を簡単に浮かべてしまうから、カインには親馬鹿と呆れられてしまうのだけれど。セシルが表情をだらしなく緩めてしまう原因はセオドアだけではなく自分にもあるのだ ということを、おそらくカインは理解していない。

「うん、それもあるけど」
「けど?」
「カインが、僕には直接渡したいと言ってたって」
「……ああ」

歓びを抑えきれぬ顔でじっと見詰めれば、漸くこちらの用件を得心したといった様子でカインは苦笑した。
ガキじゃあるまいし、催促するな。呆れた声音で言って肩を竦める。
ああもう、本当にカインは肝心なところが分かっていない。僕が早く受け取りたいのは贈物そのものじゃなくて、それを僕に渡したいと思ってくれている君の気持ちなのに。
正直にそう言ったらきっと、いい歳をした男が恥ずかしいことを言うなと顔を顰められるから言わないけど。セシルは心の中でだけ呟いて、カインの仕草を真似るように肩を竦めてみせた。

「……まあ、直接渡したいというか、人伝にできるものじゃない、というだけなんだがな」
「へえ?」

カインの台詞に更に期待が煽られて、緩む頬を抑えもせずに首を傾げる。すると案の定、国王がだらしのない顔をするなと小言が飛んできた。
うんごめん、でもだって仕方がないじゃないと笑えば、思いっきり呆れた視線が突き刺さる。君こそ、そんなの国王に向ける目じゃないだろう。まあ、友人として接するようにと説得したのは僕なんだけど。

人伝にできないもの。何だろうか。他の人に見られては困る秘密の品か……それとも形の無いものか。
素晴らしい景色を見せるとか、とっておきの秘密を教えるとか、そういう形の無い贈物も立法月朔日には好まれるのだ。

カインはフッと口角を上げると、左手の指を二本、胸の前に立ててみせた。

「二つ、あるんだ。好きな方を選べ」
「え……それ、両方、っていうのは?」
「却下だ」

選択肢を聞く前から欲張りなことを言うセシルを、親友は無情にもあっさりと跳ねつける。
セシルも確かに強欲だという自覚はあったので、それ以上は食い下がらずにおとなしく口を噤んだ。
それを見てカインは満足げに頷くと、左手の中指を畳んで人差し指一本を掲げる。

「一つ、国王の職務を完全に離れて羽を伸ばす一日」
「え」

セシルは思わず声を漏らした。
呆けたように目を見開いた親友の様子など構わぬ様子で、カインは淡々と言葉を続ける。

「国王陛下は御気分が優れぬということにして、飛空挺でミストあたりに“静養”にお送りして差し上げよう。文官たちの苦情は俺が引き受けてやる。夕方にはまた飛空挺でお迎え に上がるから、お前はそれまで好きに過ごせばいい……何ならセオドアも付けてやるぞ」
「それは……すごいね」

半ば唖然としながらセシルは呟いた。
政務を離れる。それを想像して心が躍るなんて、十数年も国王をやっている身としては相応しくない気がするけれど。でも最近はずっと働き詰めだったし、それにセシルはそもそも傅かれるということが苦手なのだ。たとえほんの一時でも“国王”であることを忘れられるなら、それはこの上ないリフレッシュになるだろう。
かと言って一日以上休暇をとったりすれば、自分は城に残してきた臣下たちに申し訳なくて居た堪れなくなってくるに違いない。さすが二十年来の親友殿は、セシルのそういう性格 をよく分かっているのだ。

――日帰り休暇。なんと魅力的な響きだろう。

素晴らしい提案に胸を躍らせたセシルは、しかし一瞬後に少し眉を顰めた。
こんな、自分が飛び付くことが容易に予想できるプレゼントを……二者択一の、片方にするなんて。もう片方は一体何だというのだろうか。
二択問題は相手が迷うからこそ面白いのだ。比較にもならぬ物を提示するなんてことは、この幼馴染はしないだろう。だが、今の自分が休暇以上に欲するものなどセシルには思いつかない。

「……もう一つは?」

期待半分、警戒半分。
そんな気持ちで、探るように尋ねれば。

カインはニヤリと笑って、懐から一通の封書を取り出した。

「俺から、お前への、直筆の手紙だ」
「――!」
「昨夜、かなり時間をかけて真面目に書いた。結構長いぞ」

左手の指に挟まれてひらひらと振られているそれは確かに、厚口の上質な封筒であることを考慮に入れても、数枚の便箋が入っているだろうと見てとれる厚みをもっていて。
それを見たセシルは、知らず、唾を呑みこんでいた。

カインが改めて、自分へ向けて文を綴るなんて。
いや、その中身が本当にセシルへの贈る言葉というか、彼の心情を綴ったものであるかどうかは非常に怪しい。ひょっとしたら、現在の世界におけるバロンの情勢がどうの、といったお固い文章かもしれないし、下手をしたら飛空挺団の予算を増やしてほしいというた類の陳情であることも有り得る。もしかしたらもっと取るに足りない、お前最近寝ぐせがひどいぞ気を付けろとか、そんな言葉である可能性すらあった。

――けれど。
それが、もし。

彼がバロンを離れていた十数年間に感じたことだとか。
昔、三人で過ごした頃の思い出だとか。
セオドアが彼の目にどう映っているのかとか。
今、再びバロンでセシルたちとともに過ごすようになった日々を……どう想っているのか、とか。

そんなことが、書かれていたとしたら。

読みたい。ものすごく、読みたい。
セシルは頭を抱えた。
まったくもう、本当に。この男は基本は生真面目で、無愛想だけれど優しい男のはずなのに。たまにする意地悪はどうしてこう質が悪いのだろう。

大体、そんなものが日帰り休暇に匹敵する選択肢だと、自分で思っているなんて。

「…………カインって、時々すごく自信過剰だよね……」
「おかげさまでな」

絞り出すような声音で恨めし気に訴えれば、カインは口元に意地の悪い笑みを刷いて、けろりと言ってのけた。
その言葉があまりにも正鵠を射ていたから。セシルは深い溜息とともにガックリと項垂れる。

彼の言う通り。
そんな指二本で摘まめてしまうような封書に絶大な効果があると知らしめたのは、セシル自身に他ならない。

彼が戻ってきてくれて以来、ずっと。
カインが、僕らに愛されている、という自信をもってくれるように。
僕やローザが、どれほど努力してきたことか。

その結果が、この人の悪い笑みだと言うのならば。


――それは確かにセシルにとって、何物にも代えがたい歓びなのだ。


「~~ああもう!わかったよ!」

それ、頂戴。そう言って封書に向けて手を差し出せば、意地の悪い幼馴染はわざとらしく首を傾げる。

「休暇はいいのか?」
「ああいいよ!もう!働けばいいんだろう働けば!」
「何をヤケになってるんだ」

笑いながら手渡された封書を受けとって、セシルは半目でジトリと親友を睨めつけた。
今日という日の計画が成功して満足げに笑むカインに――ニコリ、効果音がつくほど鮮やかな笑顔を向ける。

「そうだカイン、僕からもプレゼントがあるんだけど……二択で」

にこにこと微笑みながら言ってやれば、カインは人の悪い笑みを引っ込めてヒクリと片眉を上げた。

本当は、二つともあげるつもりだったのだけれど。あんな意地の悪い二択を迫られたのだ。このくらいの意趣返しをしたって罰は当たらないだろう。
そう考えて、セシルは苦々しい顔をした親友の目の前に右手の人差指を掲げてみせる。

「一つ、今度の剣術大会の観覧で、護衛として僕とローザの隣に座る権利」

ゆったりとした口調でそう言えば、カインの目は驚きに瞠られた。

今月の中旬に城内で行われる剣術大会。国王や隊長という立場の自分たちは出ることを許されていないけれど、セオドアは一兵士として出場する。セシルもローザも、そしてカインだって口には出さねどきっと。その観覧を楽しみにしていた。
平素ならばそういう時にカインが着くのは、武官達の居並ぶ席の一角だ。カインがそれを不満に思っている様子はない。むしろ、いくら誘っても「公私混同するな」の一言でセシルの隣になど座らないのが常……なのだが。
最近、未だ独身の飛空艇隊長殿に自分の娘を売り込もうとする武官が多くて、カインは辟易していると聞いた。大会の観覧席などで武官に囲まれようものなら、四方八方から声が掛かること間違いないだろう。
その点、国王夫妻の側に控えるのならば、そうしつこく見合い話を持ちかけてくる者もいないはず。

セシルの好都合な提案に、カインは助かった、という色を瞳に浮かべかけて……キュッと、眉間に皺を寄せた。
先刻の自分と同じ。もう片方の選択肢に身構えているに違いない。
そんな親友の様子を見て、セシルはますます綺麗な微笑みを浮かべて言葉を続けた。

「もう一つは、赤き翼を一艇飛ばして、他国へ大切な荷を届ける任務」

言えば、カインは黙ったままパチリと一つ目を瞬いて、訝しげにこちらを見返した。
セシルの言う二番目の選択肢が、どうして迷うような贈物になるのか分からない、という顔だ。
確かに、一艇のみで他国へ、となれば、城内で大勢の部下の指揮と書類仕事を抱え込んでいるよりは、少しは羽は伸ばせるかもしれない。だがその程度だ。比較的ラクな任務というだけで、歓んで請うようなものではない、と、思えるだろうが。

あくまでさり気なく。セシルは言葉を継いだ。

「届け先はエブラーナだよ」

ただ、それだけ。他に何も特別なことはない。
けれど。カインはその言葉に一瞬ポカンと呆けたような顔をしてから、込み上げる笑声を抑えるように肩を震わせた。

「なるほど。じゃあ、後者の任務を貰おうか」
「……即決かい?」

あまりにもアッサリと、率直な選択が返ってきたのが少しだけ意外で。セシルはほんの僅かに眉を寄せる。

「そんなに会いたかった?」
「いや、別に。声は時々聞いているしな」

誰に、と特定しない問い掛けにも、これまたサラリとした答えが返ってきて。

彼とエブラーナの国王が、同じ株から分けたひそひ草を所有していることをセシルは知っている。
もっともそれは専ら国同士の情報交換や業務連絡に使われていて、夜毎の睦言なんて用途にはついぞ使われていないようなのだけれど。
彼らにはそれで充分なのかな、なんて勝手に思っていたから。迷わず会いに行くことを選ばれたのが、ちょっと予想外だった。

実は、幼馴染三人で剣術大会を観覧することを秘かに楽しみにしていたのだが……二者択一にしてしまったのは自業自得とはいえ、少し淋しくてセシルは眉尻を下げた。
……と。

カインはまた、あの、人の悪い笑みを浮かべて。

「……たまにはお前に、フられる気分を味あわせてやろうと思ってな」

昔からおモテになる国王陛下には、貴重な経験だろう?
などと嫌味な口調でのたまったものだから。

セシルは心外極まりないと、即座に口を開いて言い返した。


「何言ってるんだい!二度も僕をフッて兄さんのもとへ走ったくせに!」


大真面目な顔でそう訴えてやれば。
カインは珍しくも大きく目を見開いて、それからぶはッと盛大に噴き出した。

「く、くく…っ、……ああ、そう、だったな」
「そうだよ。あんなひどい失恋は後にも先にもアレっきりだ」

堪え切れぬ、というように腹を折って笑いだした男に、セシルはムッと不機嫌な顔を作ってみせる。
そうすれば、カインは。
笑いすぎて目の端に滲んだ涙を指先で拭いながら、意趣返しのように、フッとセシルに皮肉な微笑を向けた。

「そいつは悪かった。あの頃は俺も手酷い失恋の真っ最中で人を思いやる余裕がなかったんだ」


――ああ、あの頃の自分に教えてやりたい。
セシルは親友を見詰めながら胸中に呟く。

胸が押し潰されるように苦しかったあの時の事を、こうして馬鹿みたいに笑いあえる日が来るのだと言うことを。
夢にまで見た日常が、ちゃんと待っていてくれるのだということを。


……随分、長くかかってしまったけれど。
この日々を得るためだったとしたら、十年、待った甲斐があったよ。カイン。


不機嫌な表情を作るのをやめて、心のままに、穏やかに微笑む。

「届け物はちょっと急ぎだから、なるべく早く……でも、日常業務には支障が出ないように調整してから出立してくれるかな」
「ああ。幸い今はそれほど忙しくないからな。書類を少々整理して副官と話をつければ、午後には発てると思う」

こちらも皮肉な表情をやめたカインが、落ち着いた声音で応えたのを聞いて。
少し考えるふりをしてから、ごく自然にセシルは言葉を返した。

「それじゃあ向こうに着くのは日が暮れる頃になるね。夜間飛行は危ないから、一泊して来るといい」

どこに、とは、敢えて具体的には言わなかったけれど。
きっと、彼が行けばあちらの国は歓んで客室を用意して。
でもカインはそれを断って普通の宿をとって――そこに彼国の王が微行でやって来るのだろう。

そんな事を考えながら、含みのある笑顔を向けてやれば、カインは。

「……お心遣い、いたみいります。陛下」

押し付けの好意も野暮な想像も、拒絶も否定もせずに、ただ柔らかく笑った。


セシルは今この日々を心から愛しているし、感謝している。
それは、一点の偽りも無い事実なのだけれど。


君にそんな顔をさせる異国の王に。
あの頃、君を奪っていった兄に。

僕は今でも少し、嫉妬しているんだ――なんて言ったら、君はどう思うのかな。



ローザとセオドアに一番に想われているくせに贅沢を言うなと、笑って頭を叩かれそうな気がする。

想像したら何だか可笑しくなってきて、国王セシルはまた、子供のように破顔した。



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色んな意味で恥ずかしい三十路越え男ふたり(笑)

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*御礼小話1つ(エッジ独白) お返事はMemoにて
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